研究:半導体薄膜(メンブレン)レーザ・光集積回路

Si LSIの歴史はスケーリングという概念に基づく技術進化の歴史です。SoC (System on Chip)に代表される一括機能集積は、プロセッサの処理能力や消費電力を大幅に改善させますが、同時に金属配線におけるRC遅延がシステム全体を制限するようになります(配線ボトルネック)。近年の電子回路技術の発展は目覚しく、この問題をクリアすべく様々な方法が考案されています。

光による超高速伝送は、金属配線で見られるような伝送遅延・電磁波干渉などの問題が生じない上、多重化による大容量伝送も可能となることから、次世代の配線技術として期待が高まっています。光配線における指標として、「光源」「光伝送路」「受光素子」の一連の光コンポーネントをLSI上に構築し、100fJ/bit以下の消費電力で伝送を行うことが必須とされています。

 
 

上この題を克服するため、薄膜光回路をLSI上にハイブリッド実装する技術を開発しています。100fJ/bitという低消費電力動作を目指して作られたⅢ-Ⅴ族化合物半導体の薄膜光回路をSiプラットフォーム上に構築することで、最上部の金属配線層を光配線層に置き換えます (Figure 1)。本技術のポイントはⅢ-Ⅴ族化合物半導体からなるコア層を薄膜(Membrane)として形成し、コア層上下を低屈折材料(SiO2または空気)によって挟み込む点にあります (Figure 3)。これにより、コア層の光閉じ込めを増強させ、一連の光素子の性能を大幅に向上させることができます。

 
Figure 2

この低消費電力で動作し、かつSi基板上で動作するという技術は、超高速の人工知能を実現する可能性のある光ニューラルネットワーク用の非線形素子として利用も可能です。ニューラルネットワークは、一般的に、線形演算を行う前段と、学習効率を上げるための非線形演算を行う後段の組み合わせで成り立っています(Figure 4)。これまで、光ニューラルネットワークでは、前段に関数研究はシリコンフォトニクス技術を利用して多く行われていました。当研究室では半導体レーザの光出力特性は、ニューラルネットワークの非線形演算でよく利用される関数であるReLU関数に類似していることに着目し、半導体レーザを光ニューラルネットワークの後段に配置することを提案しました。ただし、一般的な半導体レーザでは、必要な動作電力が高いため、実際には動作しません。このメンブレン構造を利用することによって、はじめて可能になることを示しました(Figure 3)。シミュレーションでは、この構造の導入によって、r機械学習の正答率が理想的なReLU関数が98.32%に対して98.22%と遜色のない値が光ニューラルネットワーク回路においても実現できることを示しました

 
Figure 3
Figure 4

また、近年の6G無線通信への期待を背景に、アンテナの直近まで光ファイバで無線信号を伝送するRadio Over Fiber (RoF)用の光源として、メンブレン構造が有用であることを示すことに成功し、今後の発展に向けて取り組んでいます。

代表的な論文:

東京工業大学 工学院 電気電子系 西山研究室

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