研究:テラヘルツ(THz)-光信号直接変換

Ⅰ. 概要

光通信は大容量、高速通信が可能であり、情報量の増加にともないさらなる高速化が望まれています。これに対し、無線通信の分野ではTHz、サブTHz帯という新たな帯域が注目されています。これは従来無線の100倍の周波数を持つ未開の周波数領域であり、10Gbpsを超える無線通信が可能と期待されています。このことから、将来的に、光通信とTHz無線通信のシームレスな接続が必要になると考えられ、これが実現されればTHzアクセスポイントや光配線を持つチップ間のTHz信号通信、ラスト数十メートルと呼ばれる区間でのシームレスな接続が可能となります。そこで光信号からTHz信号への直接変換素子の実現を目指し、研究を行っています。

Ⅱ. 変換器構造

図1は私たちが提案するTHz-光信号直接変換器構造です。THzデバイスや光素子との集積を考慮し、InP基板を用いています。n+-GaInAs/GaInAsP/benzocyclobutene(BCB)/Ti/Auから成るTHz導波路において、電界エネルギーはプラズモン効果によりAu/Ti電極とn+-GaInAs(~1×1019 cm-3)により閉じ込められ伝搬し、図1に示すようにn+-GaInAs/i-GaInAs/p-GaInAs/Ti/Auから成る変換器を通過します。変換器中のi-GaInAs層に光信号(1.55 µm)を入射するとi-GaInAs層にキャリアが励起され、自由キャリア吸収や表皮効果により金属壁のように振る舞い、THz波の透過率が減少します。光信号が無い場合、THz波は透過しますので、光信号のオン/オフによりTHz波を強度変調することが可能となります。

Ⅲ. 解析結果

図2は変換器を含む導波路断面の電界分布及びTHz波の透過・反射を解析したものです。i-GaInAs層のバックグラウンドキャリア密度が5×1016 cm-3、光励起キャリア密度は1×1018 cm-3としています。i-GaInAs層厚を0.1 µmとした場合もTHz信号の消光比は20 dB以上得られることが明らかになりました。

この変換器構造における変換動作は、光信号により生じたキャリアの寿命に律速されます。そこで、変換器に電圧を掛け、キャリア引き抜きによる高速動作を検討しました。図3にはi-GaInAs層のキャリア光励起に必要な光信号の電力と、10GHzのTHz信号に必要な引き抜き電圧を示しています。i-GaInAs層厚を0.6 µm以下にすることで、光強度を10 mW以下に、また引き抜き電圧を10 V以下に抑えられることが判明しました。今後はこれらの解析結果をもとにデバイスの作製を行っていきます。

Ⅳ. 集積型光-THz信号直接変換素子

リング形状のマイクロストリップラインを有するチップ型光-THz直接変換素子の設計を新たに行いました。図4にその構造図を示します。素子はTHzマイクロストリップライン(Au/benzocyclobutene(BCB)/Au 多層構造)の中間にリング型の光-THz変換器が配置された構造となっています。リング形状はTHz連続波において共振するように設計します。リングの一部がn-GaInAs(1×1017 cm-3)を有するメサ構造(2 µm×2 µm)となっており、この部分に波長1.55 µmの光を照射することでn-GaInAsが金属のように振る舞いリングの構造が変わったように見なせます。リング部の共振周波数がシフトしTHz波の放射が抑えられTHz波が伝搬するようになります。これにより光信号からTHz信号への直接変調を実現します。

List of reports

Journal Papers

International Conferences

Domestic Conferences

東京工業大学 工学院 電気電子系 西山研究室

〒152-8550 東京都目黒区大岡山2-12-1-S9-1 03-5734-2555 ee.e titechnishiyama

西山教員室・西山研学生室[宮本研共通](南9号館 701号室・706号室・707号室)測定室(南9号館 604号室・502号室・201号室)
クリーンルーム(南9号館 202号室・B1F 露光室)超高速エレクトロニクス研究棟