研究:活性領域と受動領域を集積した分布反射型(DR)レーザ

従来のDFBレーザは光出力が両端面から出るため、更なる効率増加のために片側に高反射(HR)コーティングを行い、光出力を片端面に寄せる方法が採られています。本グループでは細線状活性層の特徴を生かし、DFBレーザと分布ブラッグ反射鏡(DBR)を一括集積し、高性能でHRコーティングが不要な集積レーザを研究しています。低しきい値・高効率動作を特徴とするこの集積レーザは分布反射型(DR: distributed reflector)レーザと呼ばれ、その設計及び試作を行っています。

DRレーザの基本構造は活性DFB領域(電流注入領域)と受動DBR領域を集積した構造となっており、受動DBR領域が高反射率の反射器として機能します。高反射率な反射器を実現するために、DBR領域の活性層幅は細線化します。細線化によって活性層領域の体積が減るだけではなく、量子閉じ込め効果に伴う遷移エネルギー拡大が行われ、低損失導波路のDBRが作製でき、高反射率の反射器を実現できます。この手法によって同一の活性層を用いても活性DFB領域と受動DBR領域の実用的な一括形成が可能となります。

以上のような活性領域と受動領域を集積したDRレーザの試作を行い、低しきい値(サブmA動作)、高い前後非対称出力特性、高い単一モード特性を得ることに成功しています。そしてDRレーザにさらに機能素子領域を加えた3領域の集積レーザを試作し、動作確認に成功しています。

Fig.1 分布反射型(DR)レーザの構造

DRレーザはFig.1に示すように活性領域(電流注入領域)と受動DBR(distributed Bragg reflector)領域から構成されており、受動DBR領域が高反射率の反射器として機能するものです。この高反射率DBRにより光出力を片端面に集中させ、低しきい値動作を維持したまま出力効率の増加が可能となります。高反射率の反射器を実現するためにはその部分が低損失な導波路である必要があります。そのため、この領域の活性層幅を量子細線化することで、体積効果および量子閉じ込め効果に伴う遷移エネルギーの拡大を利用し、発振波長に対して吸収の少ない低損失な導波路を実現します。この効果により、幅40nmの量子細線DBRにおいて高反射率(〜97%)の反射器が実現できます。

Fig.2 DRレーザの作製プロセス

Fig.2に素子作製プロセスを示します。p-InP基板上に有機金属気相成長法(OMVPE)用いて2重量子井戸構造(1%圧縮歪量子井戸: 6 nm、0.15%引っ張り歪バリア層: 10nm)を有するレーザ元基板を作製します。その後、線幅を変調した回折格子を電子ビーム(EB)露光法により描画し、反応性イオンエッチング(RIE)を用いて活性層を直接加工し、回折格子を形成します。ドライエッチングによる損傷層をウェットエッチングにより除去した後、溝部分をOMVPEにより埋め込みその上に光閉じ込め層、クラッド層、コンタクト層を成長します。その後、ストライプ構造をウェットエッチングにより形成し、BCBによる平坦化、絶縁膜形成、電極窓開けの後、金属蒸着(Ti/Au、Au/Zn(p側)、Au/Sn(n側)など)を行い完成となります。このレーザは作製時に領域によって細線幅のEB露光パターンを変更するだけでよく、活性領域と受動領域を一括形成できる利点があります。また、2領域の導波路構造がほとんど同じであるため、領域間の結合損失はほぼゼロであると考えられます。さらに、低損傷エッチングプロセスにより元基板の結晶品位を落とさずに活性−受動領域の一括作製が可能でもあります。

Fig.3 回折格子の断面SEM像

Fig.3に作製した素子の活性−受動領域接合部分の断面SEM像を示します。周期Λa=240nm、幅Wa=90nmの活性領域と、周期Λp=241.25nm、幅Wp=40nmの受動領域が一括形成されている様子が分かります。活性領域と受動領域で回折格子周期(Λ)が異なるのは、DBR反射率ピークを活性領域で決まる発振波長に一致させ、効率よく反射させるためです。

Fig.4 DRレーザの電流-光出力特性(高効率動作)
Fig.5 DRレーザの電流-光出力特性(低電流動作)

Fig.4,5に作製した素子の電流−光出力特性(a)と発振スペクトル(b)を示します。Fig.4は高効率動作、Fig.5は低しきい値電流を示しています。Fig.4(a)に活性領域長La=300µm受動領域長Lp=210µmストライプ幅Ws=4.4µmの素子の特性を示します。しきい値電流Ith=2.5mA(しきい値電流密度Jth=190A/cm2)、前側からの微分量子効率ηdf=36%、後側からの出力ηdr=0.54%が得られ、低しきい値を維持したまま高効率動作を実現しました。また、Fig.4(b)にしきい値の2倍の電流注入時における発振スペクトルを示します。高い服モード抑圧比(SMSR)54dBを得ることが出来ました。ストップバンド幅8.7nmより屈折率結合係数360cm-1という活性層分離構造特有の強い閉じ込めが得られていることが分かります。しかしながら、ストライプが4.4µmと広いため、高次モードがストップバンドの長波長側に観測されました。Fig.5(a)にDRレーザでもっともしきい値電流が低い素子の電流−光出力特性を示します。各領域長はLa=210µm, Lp=600µm、ストライプ幅Ws=2.1µmです。しきい値Ith=0.8mAというサブmAの低しきい値動作を実現しました。外部微分量子効率はηdf=20%が得られました。Fig.5(b)にこの素子のしきい値の2倍の電流注入時における発振スペクトルを示します。SMSR=41dBという良好な単一モード動作を実現しました。この素子はストライプ幅2.1µmと横単一モードであるため、安定な単一モード動作が得られました。

以上のように低しきい値動作を維持したまま高効率動作、及び優れた単一モード動作が可能な分布反射型(DR)レーザの実現に成功しています。

そしてDRレーザにさらに機能素子領域を加えた3領域の集積レーザを試作し、動作確認に成功しています。

Fig.6 パワーモニタ集積DRレーザの構造および特性

パワーモニター領域として周期80nm、細線幅40nmの細線領域を集積し、モニター長56µmでありながら出力光の吸収を抑えています。Fig.6(b)に示すようにレーザ部はしきい値Ith=2.5mAと良好に動作し、光電流は光出力にほぼ線形の結果(感度は約0.3A/W)が得られました。以上のように細線状活性層を用いた集積DRレーザは作製法としては非常に簡便な一括集積法ですが、低しきい値、高効率で多機能なレーザ光源を実現できるため、大変有望であると考えられます。

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